香港STYLE Vol.85 夕暮れと晩秋とダイヤモンド (2019.09.15)

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香港からこんにちは

香港島南部、ある日の夕暮れ。 

弾けるような陽射しが翡翠色の海に眩しい昼間の明かりから、カーテンコールの後のような静寂に包まれる、夜の闇へと移り変わる直前。 

明くも暗くもない色彩を包む、不思議な空気。 濃くも薄くもない離島の陰影。 または、東洋でも西洋でもない香港、、、のような、刻一刻と変化に満ちたグラデーションが美しいこの時間。

季節でいえばイギリスの秋のような、1日のこのわずかな時間が、私は大好きです。

 

エリーと一緒に初めて GRAFF ロンドン本店に行ったあの日も、イギリスの秋でした。

ロンドン夏のクラッシック音楽祭「BBC PROMS」が、最終日のLast night of PROMSで華やかに幕を閉じた直後でしたので、よく覚えています。

毎年7〜9月の約2ヶ月間、世界中の演奏家をロイヤルアルバートホールに招いて毎晩コンサートが開かれるBBC PROMSは、イギリス社交シーズンのハイライト。

 

毎年9月半ばに Last night of the PROMS を迎えることは、イギリス人にとって、シーズン(王室がパトロンを務める芸術やスポーツの社交行事が多く開催される5〜9月頃までを「シーズン」と言います)の終わり、すなわち夏の終わりを意味する、最後のカーテンコールのようなものなのです。

それから2週間あるかないかの短い秋を経て、10月からはストンと冬になるイギリス。 私のGRAFF本店との出会いはその冬になる数日前、香港の夕暮れのような、晩秋のメイフェアでした。

 

メインルームとは完全に区切られてはいないものの、少し奥まったサロンのような一角に通されたエリーと私。 あの時店内にいる顧客は、私達の他にはいなかったと思います。 

プライベートな、ショウケースのない空間。 あるのは、ダークトーンのシックな色で統一された、座り心地の良いソファと美しい家具、それにドリンクを頂きながら弾む私達の和やかな会話。

どうやらエリーは、Dundek氏という紳士の、旧知の顧客だということは、先の簡単な紹介と2人が挨拶する様子から察することはできたのですが、本日の訪問先でさえ何も触れずに私を連れてきたエリーですから(聞かなかった私もアホ)、もちろんここでも、彼女が懇切丁寧に先回りの情報提供をしてくれるなどあるはずもなく、あとは会話の流れから察して上手く乗るしかないと、腹をくくったのです。

こういった、よく知らない初対面の人物と、パーティやディナーの席で対等に心地よく会話をするというのは、イギリスのある一定以上の家庭では、子供の頃から家庭や学校で学び躾けられる大事な社交マナーであり、個人主義の進んだイギリスらしい文化の一つです。 

 

自身や家族の近況、アフリカに行った夏の休暇の話、クリスティーズレクチャーの話、プレビューで見た Chippendale (18世紀イギリスの家具職人) のアンティークキャビネットの話、家族が出る国際ヨットレースの話、、、などなど、時間を忘れて確かそんな内容の会話が楽しく弾んだのは覚えているのですが、そういえば、本日私達のGRAFF訪問主要目的である、エリーの言う「見たいダイヤモンド」の話は一向に出てきません🤔

でもここで、ねぇそういえば、、、などと私から本命の話をふることはせず、このアポイントメントがどのように進んでいくのかの興味も非常にありましたし、こんな貴重な場所に連れてきてもらった手前、私はひたすら、エリーのサポート役に徹しようと心に決めていました。

こういった時の気の長さは、イギリスで生活するには必須、でもあるのです。 3年経っても決まらないBREXITがまさにそれ。

一体イギリスは何をやってるのか??と、EUはもちろん世界は呆れて見ているでしょうが、それでも彼らが「どこ吹く風〜♬」なのは、グローバルスタンダードを超えた、長期戦に強い大局的な気の長さ。 (よく言えば w)

もっとも、そうでもなければ、175年以上も前に高温多湿の冴えない漁村だったちっぽけな香港を、街も人もここまで発展させることはできなかったでしょうから、まぁその「余裕」には一理あるとは思っています。

とにかく、「3年越しの祈願劇 EUバイバイいいとこ取りBREXIT騒動」における一連の英議会の流れには、私は驚きもせず、まぁイギリスならあるだろうなと、その程度。

 

と、エリーとDundek氏の会話を気長に待っていた回顧から、話が現代のBREXITに飛びましたが、再び2002年晩秋のロンドン、GRAFF本店サロンに戻ります。

そしてついにDundek氏が話し始めたのです。 昨年GRAFFがオークションで落札した100キャラット強、Dカラー、フローレスのダイヤモンドをお見せしたいと。

きたぞ、と思いました。

ですが、さすがはファンドマネージャーのエリー。 この大事な局面に、表情一つ変えずにその申し出を承諾。

これ男性なら惚れてるレベルやん、などとアホなことを思いながら一気に目が覚めた私は、そのDカラーフローレスのダイヤモンドが目の前に運ばれてくるのを待ちました。

To be continued…

 

JUN

 

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