幻の宝石、カシミール・サファイア

齋藤 恵  No.2807 記録日 2005/01/22(土) カテゴリー ジュエリー URL URL
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幻の宝石、カシミール・サファイア


今からほぼ6年前の、1999年2月18日に、この掲示板に次のような記事を書き込みました。(元の記事は「旧メッセージボード」の中にあります。)


<引用開始>

カシミール・サファイア (Kashmir Sapphire)を、ついに入手しました!

皆様ご存じのブルー・サファイアの産地は、けっこう世界中に散在しているのですが、主なものは次の9つです。

スリランカ、ミャンマー、パイリン(タイ・カンボジア国境)、オーストラリア、マダガスカル、ナイジェリア、カンチャナブリ(タイ)、モンタナ、それにカシミールです。

宝石は一般に、産地ごとに色合い、透明度、彩度、形などに特徴があり、それぞれの産地特有の個性を持っていますので、訓練を積み、熟練した宝石商なら宝石を見れば、ほぼ産地を特定することができます。とくにブルー・サファイアの場合は、その特徴が比較的明確なものが多いため、一般のお客様でも少し慣れればその区別をつけることができると思います。

カラーストーンの価値は、美しさ、耐久性、希少性等で価値が決められるわけですが、ブルー・サファイアの場合も、産地によって値打ちが決定的に違います。たとえば、オーストラリア産とカシミール産を比べて見ると、それぞれの最高品質で比べた場合、約100倍の価格差があります。(もちろんカシミールがトップで、色が濃すぎて、グリーン系の色が混じってしまうオーストラリア産は安いのです。これは見比べればすぐ判ります)ですから例えば、カシミールの最高のものと、オーストラリアの最低のものを比べたら、その差は1万倍ではきかないくらいになります。こうなると、とても同じ宝石とは言えません。

さて、この掲示板が始まった頃、カシミール・サファイアのことを書いたことがありました。カシミール・サファイアは、一般のお客様はもちろんのこと、日本のジュエラーの大半の人達も、その存在すら知らない、まさに幻の宝石なのです。上記の各産地の中で、世界的に最高の評価を得て、したがって価格的にも最高なのも、このカシミール・サフアイアです。一度それを見たら忘れられない美しさです。

この宝石は、名前からお分かりの通り、インドとパキスタンが長年領有権を争ってきた、あのインド北部、ヒマラヤの麓のカシミール地方で産出したサファイアです。1880年代にここでかなりの量のサファイアが発見されましたが、その鉱脈の正確な場所は長い間極秘にされていました。現在ではその鉱山は、カシミール地方の中心地、スリナガルから南東へ13日の旅を要する、標高4千メートル以上、傾斜20度もある険しい場所だということが判っていますが、残念ながらその鉱脈は完全に枯れてしまい、現在ではほとんど産出はありません。もっと険しい氷河の下には、たぶんまだ鉱脈があるといわれているのですが、現在では技術的に困難すぎるのと、政治的な不安定さが原因で、誰も採掘はしていません。

コーンフラワー(矢車草)ブルーと呼ばれる、柔らかで何とも言えない優しい感じの青色で、言葉では言い尽くせない美しさです。一部分にミルキーなクラウドがかかっており、僕は妻とともに今から10年以上前に、スイスのバーゼルでこの宝石を10個ほど見たときから、一度は取り扱ってみたいと夢に見ておりました。

結局この宝石は1900年頃の採掘が最盛期だった頃に、世界中に出回ったものしか実質的に市場には存在しませんから、極めて限定された数量しかありません。ですから、その現物を見たことがないどころか、その存在すら知らない人達が業界でもほとんど、ということになってしまうわけです。

僕もここ3年以上、適当なサイズのものを探しておりましたが、この度ついにジュネーブのオークション経由で入手しました。カシミール・サファイアを!

世界中のオークションで唯一その正確さと権威を認められている、スイスのルツェルンの Gubelin(グベリン)の Gemstone Report によると、詳細は下記の通りです。

 Weight              1.29ct
 Cut                Cushion-shape
 Measurements        6.27 × 5.58 × 4.08 mm
 Transparency         transparent
 Colour             Blue
 Species            Natural Corundum
 Variety              Sapphire
 Origin              Kashmir

宝石商としては、やったー、という感じです。この記事をご覧になっている皆様には、こんな気持はお分かりいただけないかもしれませんが、妻と僕は真に美しいものを常に探し求め、それを僕たちを信頼してくださるお客様にお届けすることが、僕たち宝石商の責任と醍醐味だと考えています。単純なお金儲けにしては、手間とコストがかかりすぎ、効率が悪すぎます。でも真の意味で、美と資産性の追求と考えると自分たちでも納得します。お金儲けだけが目当ての人が扱ってはいけない品物だと、つくづく思います、宝石って。

1.29ctのカシミール・サファイアをどう料理するかですって? ようやく入手したのですから何ヶ月かじっくり考えます。それから、どんなジュエリーを作るか決めます。でもその間も、宝石自体はいつでも当店にありますので、どんな宝石かご興味を持たれた方がおられたら、ぜひ見にいらしてください。喜んでご覧にいれます。今、全国の宝石店で、カシミール・サファイアを在庫品として持っているところは、何軒あるか正確には知りませんが、たぶん間違いなく、ひと桁だと思います。そんな宝石もあるのです、エルサイトウには。

<引用終了>


以上は、僕が6年前に書いた記事なのですが、今回あらためて引用してみて、内容的にまったく変更すべき点のないことを確認いたしました。駄文ではありますが、少なくとも内容の正確さと、時を超える普遍性は一応あるというわけで、ちょっぴりうれしく感じております。

ところで、上の写真はそのカシミール・サファイアの現在の姿です。すばらしいリングになりました。

実は6年前の記事に、「ようやく入手したのですから何ヶ月かじっくり考えます。それから、どんなジュエリーを作るか決めます。でもその間も、宝石自体はいつでも当店にありますので、どんな宝石かご興味を持たれた方がおられたら、ぜひ見にいらしてください。喜んでご覧にいれます。」と書いたのですが、その後、何ヶ月も経たないうちに、当社のお得意様に「ルースストーン(裸石)」のままお買上げいただいてしまったのです。

その方は、ご自身の誕生石でもあるサファイアが大好きでして、「しばらくはそのままにして眺めて楽しみたい。」とおっしゃられて、ルースストーンのままでお持ちになっておられました。

それから数年が経過しまして、この度いよいよ、ルースストーンからジュエリーに生まれ変わったわけです。台を制作したのは、国内最高水準の職人工房さんです。ダイヤモンド商としては、世界でもっとも名の通った、ニューヨークのH.W. 社の仕事を、国内では唯一受けている工房です。

いかがですか、このサファイアリングは? ただのサファイアではないところが魅力的ですね。こういうお品は、奇跡的な偶然の出会いがなければ入手することは不可能です。エルサイトウも、今度いつ入手できるか見当もつきません。

でも、こうしてサファイアを愛する方にお納めして、喜んでいただけるのは、気苦労も多い宝石商だけが味わうことのできる醍醐味のような気もします。

以上、幻の宝石、カシミール・サファイアの一席でした。おつき合いいただきまして、まことにありがとうございました。

Re:1   風   2005年02月07日(月)00:00
カシミールサファイアに触れられているのを見て、思わず嬉しくて書き込みます。

サファイアの中でも一部のカシミールサファイアは私も特別な石だと感じています。その存在を知ってから10年近くの年月を経て、1年ほど前に入手し現在は妻の誕生石としてその指についております。

日本の展示会で3つあったカシミールを見て、一番小さいけれど私の思い描いたカシミールサファイアを海外のネットで見つけた時の興奮は今でも忘れられません。

実は先日銀座のショーメでカシミールサファイアを見かけました。店員にカシミールですか?と尋ねると、とても嬉しそうにショーケースから出して、わかってもらえる機会が少ないことと、飾り方の問題で本当に綺麗さを見せられないことを残念そうに話しておられました。本当の宝石の価値がわかり、それを愛する人から購入することは幸せなことだと思います。(さすがにショーメでは手が届かない価格でしたが・・)

産地だけではなく本当の美しさに触れられることが、本当の宝石を知る近道なんでしょうね。ちなみに驚かれるかもしれませんが。私の今までの中で最高のエメラルドはマダカスカルのものなんですよ(笑)

是非機会があれば、貴店に訪れしたいと思いました。これからも頑張ってくださいね。
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