熟成のあれこれ

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熟成のあれこれ


「熟成」という言葉には、いつも僕は重みを感じてしまいます。

「熟して成る」か! ということは「熟さないと成らない」現象だとも言えるわけでして、時間が作り出す、なんとも魅力的な現象です。

もちろん、ここではワインの熟成に関してこれから、ちょっとおしゃべりをするのですが、「熟成」はなにもワインに限ったことではありません。人間に関しても言えることですよね。

ワインの熟成は、

1)発酵 → 2)樽(またはタンク)熟成 → 3)ビン熟成

というコースをたどってくるのですが、これがなかなか複雑で、詳細なメカニズムがすべて科学的に、きちんと解明されているわけではないようなのです。

まず、1)の発酵ですが、これは現在は、ほとんどステンレスの発酵槽で行なわれます。この発酵槽は、ほとんどの場合、密封式ではなくて、タンクの上は開いています。ですから、ブドウ果汁中の糖分が、アルコールと炭酸ガスに分解されると炭酸ガスは空気中に放出されてしまい、アルコール分とその他の成分のみが残ります。でも、ワインが直接空気に触れていますので、この状態であまり長く放置しますと、酸化してしまったり、変質が発生してしまいます。

そこで、発酵がほどほどに進んだ段階で、2)樽(またはタンク)熟成に移るわけです。今度は、密封された状態で保管されます。期間としては、3ヶ月から2年程度になります。

なぜそんなに幅があるかと申しますと、量産・早飲みタイプと、長期熟成タイプの違いです。そしてまた、樽(またはタンク)と書きましたように、樽にこだわる場合と、密封はしてあるものの、ステンレスや、内部をコーティングしたコンクリートのタンクを使う場合があります。

樽の中では、ワインは樽材の木質部の気穴を通じて、ごくゆっくりと呼吸します。その過程で、ワインに極めて緩慢な酸化が起きると同時に、樽材の成分(とりわけタンニン)を吸収します。これが樽熟成で、一種のヴァニラ香がつくのは、樽材の成分の吸収によるものです。ですから、樽を使ったワインと使わなかったワインは、このヴァニラ香の有無で、比較的簡単に区別できます。

では、樽でないタンクを使うよりも、必ず樽を使った方がよいのか、と言うと、これがまたそうでもないケースもあるらしいのです。まったく、ワインと言うか、フランス人のやることは単純ではありません。

たとえば、ブルゴーニュの西北の「シャブリ (Chablis)」と言えば、辛口白ワインの代表選手ですね。僕にはよくわからないのですが、「火打ち石」の風味がするなどと言われて(火打ち石をかじったり、臭いを嗅いだりしたことがある人など、そうそういないはずですが・・・)キリっとした上質のワインであることは確かです。

ところがシャブリの醸造メーカーさんによると、絶対に樽を使った熟成をすべきだという樽信奉派と、樽を使うとシャブリ本来の風味が失われると言って、タンク熟成を主張する樽不要派がいるのだそうです。もちろん、樽の方がコストは、かさみますので、樽不要派は、その点からこう言い張っているのかと言うと、そうでもないところがフランス的なのです。

つまり、樽信奉派も、樽不要派も、どちらもその方がおいしいワインができるからと、本心から信じて論争しているらしいのです。僕などから見たら、これは個人の好みのように思われますし、そもそも、シャブリ自体が、極上ワインではありませんから、五十歩百歩のような気がするのですが、一度、同時に飲み比べてみようかとも思っています。シャブリの樽熟成モノと、タンク熟成モノを。そのうち、当社のワインテイスティング・パーティのテーマに取り上げようかと思っております。

(このパーティは、過去すでに4回開催しております。第一級のワイン専門家をエルサイトウにお呼びして、3Fサロンでティスティングを楽しみながら、ワインの「うんちく」を学んでしまおうという企画です。おかげさまで、毎回大好評です。ご興味がある方は、メールでお問い合わせください。

info@el-saito.co.jp

ところで、どんなに極上のワインでも、樽熟成はだいたい2年どまりです。それ以上、樽に保管すると、タンニンが出過ぎてしまうのが、その主な理由のようですね。そして、その後はビン熟成に回すわけですが、ここがワインと蒸留酒(スピリッツ)が大きく違う点です。

ワインは、どんなに長寿をねらうものでも、樽熟成は2年くらいで止めて、あとはビンで熟成させます。一方、ウイスキーやブランディーのような、スピリッツは、樽で寝かされているうちは何年でも熟成が進みますが、いったんビンに詰められてしまうと、熟成は止まります。つまりビンの中では、もう成長はしないのです。

ですから、僕のような、たいしてアルコールに強くないコレクターは、ワインを自宅の保管庫で育てるという意識を持っていますし、そのことを楽しんでいる面もあります。でも、ブランディなどは、いくらビンを持っていても、中味の成長はありませんから、楽しみにも乏しいと言えます。とまあ、こんな屁理屈をつけて、僕は自宅に3台の電気式ワインセラーを持っているのです、妻に笑われながら。

最後にビン熟成に関してですが、これはたとえどんな量産・早飲みタイプのワインであっても、短期間でもいいからビン熟成をさせた方がおいしくなります。これだけは、僕の知る限り例外はないと思います。

ですから、ビンの製造が可能になる前の時代は、どんな王侯貴族でも、ビン熟成ワインを飲むことはできなかったわけで、その意味では我々はラッキーですね。

でもビン熟成って、本当は何なのでしょうね? いや、僕も正確なところは知らないのです。従来から、ビン熟成は酸化現象のひとつだと言われてきました。ビンの中のワインがコルクの気穴を通じて、ごくゆっくりと呼吸するというわけです。

でも、よく考えてみると、キャップシールや封蝋で完全に空気を遮断しているものもありますし、本当にあのコルクを通じて空気が出入りするのか、と言われると、僕にも自信がありません。

他にも説があります。コルクとワインの間に僅かな隙間があり、その空気がワインの呼吸に使われる。(ちなみに、ブルゴーニュの赤の至宝、ロマネ・コンティは、あの部分を真空にしているのだそうです。その手間賃も、あの代金の一部なのでしょう、きっと。)

それから、澱引きのために樽から樽に移されたりする時に(そういう高級ワインもあるのです)、すでにたっぷりと酸素を吸い込んでいるから、ビン熟成にはそれで十分だとか。

まあ、いろいろと複雑なのがワインの世界の特徴でもありますから、これもまた、多少霧の中に置いておいた方がよいのかもしれません。

ただし、コルクが悪ければ、ワインが劣化するのはたしかです。これは間違いない事実ですね。

それと、保管する場所の条件ですが、いろいろな説を総合してみますと、こんなことになりそうです。

1)温度: 13度前後の低温気味が理想だが、あまり神経質になる必要はない。注意すべきは、温度の変化。とくに低温から高温への激変は避けるべき。安定が理想。

2)光:  直射日光はもちろん、電燈も好ましくはない。ともかく暗所がよい。

3)湿度: これはコルクの乾燥を防ぐためが主たる理由なので、湿り気はあった方がよい。でもそれほど気にするものでもない。

4)振動: これは、澱を考えてみただけも、静かな方がよいわけでして、まあ、静かに寝かせるにしくはなし、といったところですね。


と、こんなことをなんだかんだと言いながら、3台のワインセラーを満杯にしている僕を見て、妻は時折、「生きている間に全部飲みきれるの?」と突っ込んできます。うーん、僕にもわかりません。

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